今日の天気 明日の天気
「シュウ!今日は晴れよ!歩きやすくて嬉しいかも!」
ハルカがホテルの窓から空を見上げて言う。
ぼくはいつも睡眠不足の目をこすりながらその明るい声を聞いている。
「今日も雨!ゼニガメと一緒に練習よ!そしたらカメールに進化するかも!」
次の町に進むことができなくなってからもう5日。
憎い憎い雨にハルカとホテルの一室に閉じ込められてからもう5日。
それでもハルカは嬉しそうに窓を開けて雫を受け止めている。
「シュウ!空が曇ってて太陽が出てないからまぶしくないかも!これならいくらでもアゲハントと一緒に練習できるわ!」
まぶしかろうがどうだろうが、まぶたが重くてそんなこと分からないであろうぼくに、ハルカはとても嬉しそうに呼びかけてくる。
「君はどんな天気でも嬉しいんだね。」
ある晴れた日の夜、とあるホテルのクーラーの効いた涼しい部屋。
薄いシーツだけひっかけて仰向けに転がる。
ぼくは今日もベッドにもぐりこんできたハルカにポツリと漏らした。
誰かさんのせいで明け方まで眠れないぼくにとって、朝の天気なんてどうでも良いのだ。
睡眠不足でそんなこと考えられない。
「シュウは嬉しくないの?」
「別に。」
雨でなければ快晴だろうが雷が鳴っていようが地震雲が浮かんでいようがどうでもいいのだ。
自然に無関心というのは自分でも悪い傾向だとは思っているが。
あれもこれも全部ハルカのことしか考えられなくなっているせいなのだ。
仰向けだったハルカがコロンと寝返りを打つ。
「わたしは嬉しいかも。」
ぼくの顔を肘をついて覗き見ている。
「晴れてたらシュウと一緒に歩けるし。」
目と目が合う。
「雨だったらシュウとアメモースが練習してるとこいっぱい見られるし。」
その目はキラキラと光っていて。
「曇りだったら空見上げてもまぶしくないからシュウとバタフリーをずっと眺めていられるわ。」
ワクワクドキドキが手に取るように分かって。
「ライバル同士が近くにいたり、あんまりお互いの技を見るのは良くないって言う人もいるけど、それでも。」
本当に嬉しそうだった。
「シュウといるととっても楽しい。シュウとポケモン達はとっても綺麗。それはどんな天気でも変わらないわ。」
そこでハルカは顔を伏せる。
ぼくの胸にその額を乗せて。
「毎日がとても新鮮よ。毎日違う顔を見せるあなたはとても格好いい。」
そのまま体を預けてくる。
「だから、今まで以上に朝が来るのが待ち遠しい。明日の天気がとても楽しみ。」
「そうか……。」
ぼくはその心地良い重みに腕を回す。
「なら、ぼくも明日からは君をもっとよく見ることにするよ。」
どうせ君のことしか考えられないんだ。
だったら、君を通して世界を見よう。
「シュウ、わたしのこと惚れ直すかも。」
「おやおや、自信満々だね。そんなに君は美しかったかい?」
「……美しくなるもん!」
「できるかな、君に?」
「絶対やってやるかも!」
ベッドの上でしばしじゃれ合う。
そうこうする内に、ハルカは眠ってしまった。
ハルカはとても美しい。
この腕に閉じ込めて、ぼくだけのものにしてしまいたいくらいに。
ぼくはその欲求と朝が来るまで戦っているのだけど。
朝が来るのが待ち遠しい理由がもう一つ増えてしまった。
明日のハルカの見せる顔。
とても楽しみだ。